トップ >  食・健康 > MDR-1遺伝子というやつ (1)

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自然とはよくできているもので、体の中にはもっとも大事な器官である脳を毒物・薬物から守るための機能が備えついている。手や足がなくなったところでまだ体は存続してゆくことはできるが、体を司る脳がやられては個体は死んでしまう。

だからその大事な司令塔を守るために大事な門番が付いているのである。その門番は血管壁にあるマルチ・ドラッグ・レジステンス・トランスポーター(MDR-1 Transporter)といい、ここで毒物・薬物が血管壁を通り脳組織へと入り込むのをコントロールしている。

王様の近くへは誰それと近づけない、ということだ。

ところが昨今になってこの門番がいなくなるという現象が発見されたから、さあ、大変。

1980年代に、今の獣医学の現場において最も多く処方・投与されている駆虫薬の1つであるイベルメクチンの投与後、はじめて進行性の神経障害が犬に観察された。そしてこのイベルメクチンは個体によって副作用症状を表す投与量に大きな差が見られたのである。

ちなみにこのイベルメクチン、日本ではフィラリア症の予防薬として広く投与されているのをご存知の方も多いと思う。

ではなぜにそんなことになるのか?MDR-1 を作るためにはそれを指示する遺伝子が必要だが、実はこのイベルメクチン副作用を引き起こす個体にはこの大事な遺伝子が突然変異により欠如している。

つまり門番の存在を誰も気に掛けてくれるものがおらず、しかも忘れていたというのではなく、全く考えになかったのだ。慌てたところで急に門番を作り出せといわれてもそればかりはできないのが体である。

さてさて門番がいなくなることでさらに悪い事態は続く。

この MDR-1 遺伝子とはその名の通り数種の薬に耐性を与える遺伝子のことであり、そもそも多くの薬物の通過を防ぐはずの門番がいないということで、開き門には通常以上の悪者達が通り抜けるようになってしまった。

悪者が門を通過してしまうとどうなるかというと、

  • 運動神経障害 (筋力の低下や麻痺など)
  • コーディネーション障害 (目標と動きが一致しない)
  • オリエンテーリング失調 (うろつき)
  • 嘔吐
  • 痙攣
  • 昏睡

と、飼い主にとって「あれ?」と思う症状から、パニックを通り越し死にいたる症状まで。ケロッと吐く程度の副作用なら大目に見てやれないこともないが、死んでしまうとなっては事は重大だ。

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ここで門を通過してしまう悪者達の一例を以下のリストに上げてみよう。

  • イベルメクチン (駆虫薬)
  • ドラメクチン (駆虫薬)
  • ロペラミド (止痢薬)
  • ディゴキシン (強心性配糖体)
  • ヴィンクリスティン (抗がん剤)
  • ヴィンブラスティン (抗がん剤)
  • ドクソルビシン (抗がん剤)
  • シクロスポリン (抗生物質・免疫抑制剤)
  • グレパフロキサシン (ニューキノロン系抗菌薬)
  • スパルフロキサシン (ニューキノロン系抗菌薬) 
  • オンダンセトロン (制吐剤)
  • キニジン (抗不整脈薬)
  • エバスティン (抗ヒスタミン剤)
  • デキサメタゾン (ステロイド系抗炎症薬)

うげげ、これだけ多くの薬になってしまうと、もう飼い主では分からない。

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コメント

詳しい内容で、大変分かりやすかったです。うちの子はイベルマイシイン経口投与後、神経障害がでました。一度副作用が出ると、治ることはないのでしょうか?文面で「進行性」とありましたが、いづれ死に至るのでしょうか?治療法があれば教えてください。

投稿: かずごん | 2009/04/18 20:40

>かずごんさん
イベルメクチン(の間違いですよね?)の通常量投与で神経障害が出るならば、まずMRD-1遺伝子欠如の疑いが強いです。
これは本文にありますとおり遺伝による欠如なので、これを治すことはできません。
進行性とあるのは引き続きイベルメクチンを投与し続けると現れる症状がどんどん悪化し、いずれは死に至る事もあるということです。
治療法はありませんが、これらMRD-1遺伝子欠如により障害を起こすとされている(脳への関門を通過してしまう)薬品(本文中リスト参照)を投与しないこと、あらかじめの危険回避が最大最良最善の手段となります。
ですから、すでにイベルメクチンで症状が出ている今、どうぞご愛犬の遺伝子検査をしてもらって、かかりつけの獣医さんに別の薬選びをお願いされることをお勧めします。
これは駆虫剤だけに限らず、今後何かのときにも役立つことです。
私の記憶では検査料金もそんなべらぼうに高いというものではなかったように覚えています。
検査の詳細等はどうぞかかりつけの獣医さんにご相談なさってください。

投稿: 京子アルシャー | 2009/04/19 05:10

ご返答ありがとうございました。早速MRD-1検査に行ってきます。
遺伝子欠如は治らないとして、今出ている症状(痙攣・うろつき等)は治まっていくのでしょうか。

投稿: かずごん | 2009/04/19 09:06

>かずごんさん
イベルメクチン投与により現れた神経症状は軽症の場合1週間から10日ほどで消えてゆきます。
症状が酷いとそれだけ回復に時間がかかりますが、いずれは薬物が体で代謝され、正常に戻りますので大丈夫ですよ。

あ、上のコメントでMDR-1を「MRD-1」と間違ってました、ごめんなさい。(^^;)

投稿: 京子アルシャー | 2009/04/21 21:52

初めまして
私は日本でロシアンブルーを愛するあまり
ロシアンズの僕と化して生活している者です

此の度はカルドメックの副作用と犬種の劣性遺伝の事で
検索していた中で
こちら様のサイトに行き着きました
とても解り易くて
私の記事の中でこちら様の記事をリンクさせて頂きました
事後報告で申し訳ありません

日本ではまだまだ遺伝病についての
知識は普及していなくて犬もさることながら
犬に負けじと選択交配が進んで来ている猫については
皆無の状態です‥‥
今後色々な疾患が出て来ても無責任なブリーダーも
さることながら
飼い主は誰を信じていいのか
苦しむ我が子を抱きしめて
うろたえるばかりです
参考に出来るのは既に立証されている犬のデータです
こちら様はとても参考になるサイトです
もし何時か機会hがったなら
近親交配から猫にも現れている
パテラの遺伝の法則を解り易く説明して頂きたいです

今後も立ち寄らせて下さい
宜しくお願い致します

投稿: bluestar | 2009/06/26 01:33

>bluestarさん
すっかり遅れたレスでごめんなさい。
記事のリンクをありがとうございます。
たしかに犬の遺伝疾患については徐々に知られてきていますが、猫の場合はほんと皆無に近い状態ですよね。
見た目の美しさ・かわいさばかりが重視され、肝心の健康についてはまったくの二の次という繁殖の現状が結局は犬・猫とその飼い主家族に振りかかってくるという悲惨な状況です。
もっとこれらを真剣に捉えることができる社会の基盤作りを願って止みません。
パテラは小型犬で多く見られている遺伝疾患にもかかわらずほとんどの飼い主が「疾患」として認識せず、HDやEDのように痛みは伴わないのでみな平気な顔をしています。
でも、ないに越したことはないんです、しかも防げる疾患なのですよね。
これについては記事のテーマリストに挙げておきますね、いつかお話できると思います。
今後もどうぞよろしくお願いします。

投稿: 京子アルシャー | 2009/07/14 20:58






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