イギリスに渡った私は、レスター州、リンカン州を経て、コッツウォルズ地方の美しい自然の中にあるお洒落な街、チェルトナムに腰を据えた。
コッツウォルズ地方はイギリスでもっとも美しい場所の一つでもある。穏やかな丘陵地帯で、13世紀から羊毛の生産地として知られ、その土地で取れるライムストーンを建物に使うことから、はちみつ色の村が連なる。
詩人でデザイナーだったウィリアム・モリス、「惑星」の作曲家であるホルスト、天然痘のワクチンを見つけた医師のジェンナー等を輩出している。
コッツウォルズほど、私が心から住みたいと思った土地はない。丘陵地帯を運転していると、美しさと楽しさでよく涙が出た。
イギリスが自分にとって最も身近な居場所になった決定的なことは、そこで犬と暮らすようになってからということは言うまでもないだろう。
前々から犬を飼ってみたい、犬を飼うなら里親として引き取りたいと思っていた私は、イギリス人の知人から、近所にあるレスキューセンター(里親施設)、 National Canine Defence League (NCDL) の存在を聞いた。しかし実際には決心がつかず、一年が過ぎた。
ある秋、私は大学の友達と、大学で行われた馬術の競技会を見に行った。
イギリスでは大抵の馬の競技会、特に、野外を駆けて丸太や垣根などの固定障害を飛越する、イベンティング(総合馬術)の野外騎乗や Point to Point 競馬では、犬も一緒に見学することが許される。
当然、馬という大変繊細で、かつ高額な動物が人を乗せて疾走したり、緻密な人と馬のつながりで、華麗な演技を見せるので、犬が吠えたり、落ち着きなく暴れることはNG。もしもそのような犬を馬術競技会につれて来れば飼い主自身が恥ずかしい思いをするだろう。
競技会では馬のように歩くグレイハウンドやラーチャー犬がたくさんいた。現在の日本では都市部を中心に、ウィペットやイタリアングレイハウンド、ボルゾイやサルーキなどが多くなったが、この手のスマートな犬は、私が渡英する前の日本にはあまり存在しなかった。
彼らは細い顔で、耳を立てたりしまったりして、他人や他犬の誰にも媚びず、プライド高く1歩1歩長い足で静かに歩き、とても美しかった。
私はその時まで、犬はうるさく吠えたり、飼い主を引っ張ってシャカシャカ歩いたり、誰にでも愛想を振りまいたり、ベロベロ舐め通してヨダレでベタベタにしたり、毛を撒き散らしたり、時にアグレッシブで噛んだりするものだという先入観があったので、こんなにも静かで従順に飼い主と歩き、本当に「伴侶」という言葉がぴったり当てはまる犬の一面を知らなかった。
「犬を飼う」ことを一年以上考え続け、ゆらいでいた気持ちがその光景を見た時ついに固まり、私はその足で、友達と一緒にイブシャムにある NCDL へ向かった。
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