彼の名は「ブルーノ」。 我が街の名物犬である。
ニュージーランドに住み始めて8年目になる。 今ではすっかり住み慣れたこの街に、越してきたのが6年前。ブルーノと出会ったのも、その頃だ。
彼の一日は多忙を極める。
まず、飼い主さんが仕事に出かけた後は、脱出。そうしていきつけのカフェにたどり着いたなら、常連さんたちからマフィンやサンドイッチの切れ端などをもらい午前中の腹ごしらえ。武士は食わねど高楊枝、ブルーノ食わずんばさすらえず。
一息ついた後、次に目指すはなんと獣医。待合室のソファーを、看板猫からの冷たい視線も気にせず陣取って、手のあいた獣医師から触診などの健康チェックを受けるためだ(なのか?)。 さすらい犬たるもの、自身の健康管理は怠るべからず。見習うべし、我が犬たちよ。
ゆっくりと、午後の時間が流れるに身をまかせお昼寝を貪り、下校する子供たちが増えてきたら列に合流して帰宅する。
まさに自由を満喫しているブルーノなのだ。

その昔、若かりし頃のブルーノは、住み慣れたこの街だけでは物足りず、バスをつかって隣町まで出勤していたというから驚きだ。そしてバスを使ってきちんと家のあるこの街まで帰ってくる。(もちろんバスの運転手さんのヘルプあってのことなのだが・・。)
交通量の増加に危険を感じたのか、最近では隣町への出張はなくなったブルーノだが、2007年にまたもやブルーノがやらかした。
この街は海に囲まれている地形を利用してか、海軍の基地がある。
ある日、海軍の実地訓練が海上で行われることになり、軍艦が港を離れていったのだった。
2週間の海上生活。若い士官候補生たちにとってとても過酷で、厳しい訓練の日々がまちうけているであろう緊張の船出。
船は順調に、国際海域を目指して進んでいたところ・・・・・・・・・・・・
突然鳴り響く警報装置!
船全体に走る緊迫したムード!
発見されたのはなんと?!

・・・・・・・・・・昼寝中のブルーノだった・・・・・・・・・・・・・。
国際海域に犬を持ち込むことはもちろんできない。 船は180度の方向転換を余儀なくされたのであった。
エンジンルームの横はさぞかし暖かったことだろう、ブルーノ。
そんなブルーノを街中の人たちが愛していたし、ブルーノを笑顔で受け入れているそんな街が大好きだった。
街は変わりつつある。
犬が オフリードで歩きまわる姿を、好意的に思わない新しい住民ももちろん出てきたのだろう。ブルーノがさすらうことは、ほぼまれになってしまった。時折見かける彼は、リードに繋がれてお店の前で飼い主さんを待っている姿だったりする。そんなブルーノを古くから知る街の人が、申し訳なさそうに声をかける。

人口が増え、子供たちが増え、新しい顔ぶれが揃いお店が増え、人間社会にとって大変機能的に、便利な街へ変貌を遂げつつある。そのことに文句は無い。
ここ数年、移民を積極的に受け入れてきたニュージーランド。色々な文化が混ざり合うメルティング・ポット。
犬をとりまく環境も、必然的に変わってくることになる、ルールはこれからも増えていく。
住民が増え、便利さが増し、街の資産価値が上がった。
恩恵を受けている私たちだが、ときにふと、さすらい犬ブルーノのエピソードがこれから増えることはないのかと思うと寂しさも覚える。
古くからこの街に住む人たちから頻繁に聞く言葉、「昔のこの街が懐かしい」。 移民としてやってきた私たちの耳に、チクリと響くこの言葉。
受け入れてくれたこの国とこの街に感謝することを忘れず、犬たちと人間が共存するのに理想の街づくりに貢献するべく、まずは責任ある飼い主でいよう。そこから始めて行こう。





微笑ましく、今では失われつつあるこの内容に、今はもう死んでしまった私が若い頃に飼っていた猫のハンサムを思い出しました。
今でも命日付近になると家族のだれかれともなくハンサムの話しをし始めます。その子も自由気侭な生活をする中、ご近所の色々な方に可愛がられておりました。もう亡くなって20年です。
ホンワカする記事をありがとうございます。
投稿: Tinako | 2008/10/13 14:35
ゆうさん、お久しぶりです。
(いえ、一方的にはいつも拝読していますが 笑)
大好きなブルーノ君の登場に、黙っていられませんでした。
本当になんて味のある子でしょうか。
でもさすがのNZも、いつまでもこういう犬の存在を許してはくれないのですね。
寂しい気持ちですが、仕方のないことなのでしょうね。
日本も昔はこんな風に人と犬がいい距離感で共存していたのだと思います。
空前のペットブームとやらで、人と暮らす犬の数は増えたけれど
本当の意味で幸せな犬というのは、さてそのうちの何%なのでしょう。
おっしゃるようにまずは責任ある飼い主でいること、私も改めて心に銘じました。
投稿: あが | 2008/10/13 14:47
さすれいのブルーノ、「羊の国の・・・」の登場紹介で
気になっていました。ブログを読み返したり、本を拝見
してれば、とは思いつつ(汗)
なるほどなるほど、と前半はとても楽しくそして感心してました。
ブルーノくんがさすらえるのが、古き良き時代の象徴みたいな、
そんな時代になってしまったのでしょうか。寂しいですね。
確かに、犬が大好きで大好きでも、ぶわーーーーって追いかけられたり、
咬まれたら、ビビります;なにもしてないワンちゃんでも、ノーリードで
うろうろするのを快く思わない人もいるのも解るのですけどね;
それもひっくるめて、憧れる、ステキなニュージーランド「羊の国」で
あって欲しいなぁ、なんて思います。
これからも楽しみにしてます!
投稿: あきぽん | 2008/10/13 16:23
この一言で片付けられてしまうんでしょうかねぇ、
「時代の流れ」
3、40年前の人々もその昔を振り返り、
さらには3、40年後の人々もちょうど今くらいを振り返っては
「昔は人も動物も住みよかったんだ」
とつぶやくのでしょうか。
昔、実家の近所にも雑種で賢い子がおり、飼い主さんとの散歩にも生涯完全ノーリードで過ごしてたワンちゃんがおりました。
絶対にお父さんのそばを離れないんです。
その関係をご近所さんたちもよーく知ってるからノーリードをとがめる人もいない。
微笑ましいと同時にその後姿から溢れる信頼が温かい気持ちにさせてくれたものです。
人と犬との関係がきちんと築かれて、それがどこの家庭でも当たり前で社会に認知されてれば良いのでしょうけど。
時代の流れとはいえ、ブルーノ君が流離う姿も見れなくなるのは寂しいものですね。
投稿: 六房 | 2008/10/13 18:49
ゆうさん、ブルーノ君のお話ありがとうございます。
そうですよね、なんにしても「何か問題があったら」みたいな心配からか「訴えられたら」とか、「誰の責任」みたいなことが先にたって、こんなブルーノ君の自由が奪われるなんて。
昨日もオフリーシュの海岸で、ごまこが楽しそうに皆に挨拶していたら、一人の飼い主が犬をつないで走ってきて、「これ君の犬?押さえてよ」と言うので「どうして?ここオフリーシュエリアじゃない?」と聞いたら、黙っていってしまいました。おそらく闘犬だったのでしょうね。なんか悲しくなって、落ち込んでしまいました。日曜の午後、皆気持ちよく犬共も楽しくお散歩してたのに。。。今日の新聞にも、市役所が受けたクレームのうち、犬に関するものが一番多かったー特に吼え声とか。
そして、オフリーシュのシステムもそのうちなくなっちゃって、皆犬はリードつけてなんて時代がやってくるのかな。
投稿: Wald | 2008/10/13 20:29
高校生の頃、庭に入り込んできた犬がいました。
汚れを洗うと、立派なコリーでした。
近所に迷子犬の噂も無く、、
兄弟で大喜び、
自分たちの飼い犬のように世話をし遊びました。
ラッキーと名前をつけ、犬小屋を作りましたが、
首輪をつけ、リードでつないだ記憶はありません。
我が家に来て、三ヶ月になろうとするある日、姿を消しました。
本当の飼主を捜して旅をしていたのかもしれないね。と
親に言われて、納得したのを覚えています。
45年前に出会ったさすらい犬です。
今は、五ヶ月になったばかりの子犬を育てています。
外出の時、常にリードを付けるのは、、ルールです。
ただ、ルールはルールとした上で、周りに迷惑をかけないようにして、
自由に走り回るチャンスも作ってやりたい、とも考えるのです。
いけない飼主でしょうか、、。
ニュージーランドのシープドッグの話も興味深く愉しませていただきました。
つぎは、どんな話でしょう、、興味津々です。
投稿: bura-san | 2008/10/14 14:43
>>Tinakoさんへ
こちらこそ、ほんわかするコメントをありがとうございます。
子供時代に住んだ田舎生活にトリップさせていただきました。
>>あがさんへ
おひさしぶりですー。
あがさんがこちらのサイトの熱心な読者さんであることは存じ上げておりましたよー。
一緒に盛り上げていければいいな。 これからも宜しくお願いします。
>>あきぽんさんへ
ニュージーランドの移民増加率はここ10年間ですごくって、
文化や街並みがめまぐるしく変わっているんですよね~。
でも昔からいた人たちは、本当にあたたかく受け入れてくれているんです。
いい街です。
なのでこれからも、犬と人がいい関係でいられる街になるんじゃないかと
期待しています。
コメントありがとうございます!!
投稿: ゆう@羊の国 | 2008/10/15 05:57
>>六房さんへ
本当ですよねえ。
考えてみれば私だって子供のころは、近所にノーリードの犬たちが
たくさんいたような気がします。 だから自宅の犬が妊娠したり(汗)
自然な姿ではありましたが、理想とは言い難かったかな。
でもこの街でのブルーノはのびのびしていて自然にそこにいる。
実は先日も、さすらってるところを目撃しました。
案外いい方向に進んでいるのでは?と期待をもっていますよ。
>>Waldさんへ
そうなんですよねー。
実は私も、最初にこの街に越してきて、最初にブルーノに遭遇したとき
やっぱり聞きましたもん、近所の人に。 「このワンちゃん、迷子ですか?」って。
彼の安全が心配だったこともあるし、「何か問題があったら」と思ったことも事実。
どうしても人口が増えるとルールが増えて、責任が個人に課されますもんね。
でも、きっとそんな社会でも犬たちが楽しくやっていける方法は必ずあるはず!
ですよね。
>>Bura-sanさんへ
なんだか子供のころの動物たちとの記憶がよみがえるエピソードでした。
ありがとうございます。
私はよく猫をひろって帰ってくる子供でした。
動物はそうやって、忘れられない記憶を私たちに残してくれますよね。
自由に走り回るチャンスを与えてやりたいと、誰もが思って当然ですよ。
田舎の獣医さんが私に、「ここの犬はみんなノーリードで走り回っているから
病気にならないのよ。 商売あがったりだわ。」と笑っていました。
心臓病が極端に少なくなる、とも。
そんな動物たちとの理想と、現代の人間社会で、なんとかいいバランスを
見つけてあげたいですよね。 きっとできるはず。
投稿: ゆう@羊の国 | 2008/10/15 06:09