トップ >  暮らし・日常 > コッツウォルズで犬を飼う (5) - 通らなかった獣医審査

Peanut at the Vet

[Photo from lovebyte]

長い間新しい家族を待ちわびていたスペンサーに、ようやく HOME が見つかり、スペンサーは「引き取り先が見つかった犬達の犬舎」に移された。そして敷地内のクリニックで、獣医師により、最終的な健康診断(vet check)を受けることとなる。ちなみに犬達は DOGS TRUST に入居した時点で既に、去勢・避妊手術を受け、首にはマイクロチップが挿入されている。マイクロチップに関してはまた別の機会にお話したい。

健康診断の間、私はレスキュードッグを引き取る心構えの講座やしつけの講座(pre-adoption talk)に参加しなければならなかった。講座は平日の夜行われた。DOGS TRUST 内にある教室にたどり着くと、既に6-7組の家族やカップルがいた。講座の内容は、レスキュードッグをいかにストレスなく我が家へ迎えるか、という話が中心となる。

レスキュードッグ内には、興奮すると後脚でピョンピョン飛び跳ねたり、前脚を人間にかけたがる bouncy な犬が比較的たくさんいたので、そのような犬にどのように対処すべきか、問題行動をどのように矯正していくかということを、それぞれ引き取る犬に合わせてアドバイスがされた。スペンサーは行動的に大きな問題はないと言われ、とても安心したし、頼もしかったのを覚えている。

講座を終え、犬を引き取っても良いという審査を最終的にクリアし、私の心構えも環境的準備も整った時、スペンサーを入所当時から面倒を見てきたスタッフのニックはある異変に気付いた。

「体重が減りつづけている……」

獣医師チームは一向に、具合が悪くなったスペンサーに OK を出してくれなかった。何度も血液検査が繰り返される事になり、随分長い間、回復を待った。検査は何度やっても良い結果が出てこなかった。何度電話しても何度訪れても「まだです」の一言が返ってくるばかりであった。私はオースティンの小さな古い車に乗って、何度もスペンサーの元へ出向いた。イギリス特有の霧のような雨と冷たい風の中、車が壊れて立ち往生したこともあった。

会いに行き、スペンサーを散歩に連れ出して、こっそりとビスケットをあげる。スペンサーはいつものように物静かで、カリスマ的な顔をしていたが、他の犬を気にしたり、少し神経質になっているようにも見えた。

寒い冬を越し、春がやってきた。なんとなく諦めの色が見え始めた5月、電話がかかってきた。電話の相手はニックだった。「持病が悪化し、スペンサーは酷い状態でした。回復の見込みがないことから、安楽死処置が取られました。予約を取り下げさせて下さい」

“ We had to put him down....” 「安楽死させました……」

失望の気持ちが大きくて、涙もでなかった。スペンサーが我が家にやってくることはなかったのだ。病んだ犬を、苦しみから解放させるために、スタッフは最後の愛情で、眠らせることを決断し、獣医師は注射を打った。

“Spencer, everybody’s best friend”(最愛の友、スペンサー)と刻まれた墓石が、 敷地内のメモリアルガーデンに一つ増えた。

Pet Cemetery at Max Gate

[Photo from johnelamper]

なんてかわいそうな子だったのだろう、生まれてすぐ捨てられて、誰からも愛されずに施設に引き取られ、7年かけてようやく HOME にめぐり会えたかと思ったら孤独に死んでいった。 彼の世界にはボスは存在しなかったし、信頼できる仲間もいなかった。7年間毎日毎日、犬舎で他の犬の鳴き声を聞き、多くの犬達が新たな家に貰われていく中で、絶え間なく次の新しい犬が入ってくる。昼には人間が犬を選びにやってくるが、誰もスペンサーの前では足をとめなかった。

私が引き取ると言ったせいで、安楽死としての死期を早めてしまったのだろうか?精密な健康診断などしていなければ気付かれなくて少しでも命は延ばせたのだろうか?私は犬を引き取るべきではなかったのだろうか?

勿論どれでもなかっただろう。死期が近いのに、苦しみながら短い期間を無理に生かすことは酷だった。苦しみなく眠りに導入できる、獣医学的に正しい方法で行った安楽死は、適切な判断だった。スペンサーはただ、弱っていたのだ。苦しくて痛かったのなら、安楽死はスペンサーをどこまでも解放してくれただろう。

でももう犬を引き取ろうという気持ちにもなれなくて、空白の時間だけが過ぎた。

今も私の中で唯一、冬の寒い日に施設内のベンチに座り、私のコートのポケットに入っているビスケットを鼻でクンクンと探る無機質な目をしたスペンサーが、ただ心に残っている。

way home

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コメント

ただ、涙々。。。

投稿: nona | 2008/11/29 12:51

スペンサーは前の犬だったのですね・・・
でも7年間をきちんと面倒を見れるって言うシェルターも凄い。
そ〜ゆ〜ところがイギリスだな〜って思うところ。

投稿: Tinako | 2008/11/30 01:45

こちらへははじめまして。
LとDDのオーナーです。
スペンサーのことに触れるのは、お辛いことだったとお察しします…。
実際に家に迎え入れることは叶いませんでしたが、スペンサーが命を全うする直前に、彼を心から愛おしみ、生活を共にしたいと願うMieさんと出会えたことは、大きな意味のあることだったと思うのです。
話してくださってありがとうございます。

センターで飼い主を待ち続ける犬達に思いを馳せつつ…。

投稿: LD | 2008/12/01 08:25

nonaさん
こういう犬が生きていたことを、日本の皆さんに知ってもらえて本当に良かったです!

Tinakoさん
シェルターによっては処分を頻繁に行うところもありますが、ここは殺さないことがポリシーだったので。それでも、スペンサーは元々からだが弱かったのに、ここまで面倒みてもらえたのは、やはりスペンサーに何か大きな魅力があったのではと思っています。

LDさん
こんにちは!!!コメントありがとうございます!
一度でよいから暖炉の前の落ち着ける暖かい家庭のソファでのんびりしてもらいたかったですね、やっぱり。もう少し早く行っていれば、短い期間でもうちで過ごすことができたのかな、、、とも思います。
暖かいコメント本当にありがとうございます。寒い季節になってきました、そちらの家族もみんな元気に過ごせますよう!

投稿: Mie Shinki | 2008/12/01 18:17






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