グレーピレニーズの子犬。番をする犬たるもの、羊を決して追いかけてはいけないのだが、これはパピーのやること
ピレネーは、おとぎ話みたいなできごとが本当におきるところである。
お昼。一行は山腹の野原の林に馬をつなげ、おのおのお弁当を開いた。スペインのお弁当だから、サンドイッチといっても中にハモンがはいっている、なかなか上等なもの。パンの上にトマトが塗りつぶされ、そこにオリーブオイルがかかっているのは、ここカタロニア地方独特のスタイル。
うまいうまいとぱくついていたら、ふと50m前方に髪の長い男性が杖をふりふり、こちらにやってくるのが見えた。そして彼のまわりには、まるでハンメルの笛吹きに誘われたねずみたちみたいに、ぞろぞろと数頭の犬がついてきている。
よく見ると、みな虎毛だ。サイズもコートの色もそろっている。こんな山のだ~れもいない大自然の中で、どうして男と犬が突如降って沸いたように現れるんだ?あんな大勢の犬を従えているから、なおさら不思議ではないか。
長い髪の男は、ふらりふらり、ガイドのマテウさんのところにいった。そしてなにやら話しこみはじめた。犬達の集団は、そこで少し解散。男の側を離れ、おの おのの行動に入った。こちらにきて、サンドイッチのにおいをかごうとしたり、あちらでおしっこをしたり。ただし、つないでいる馬にはまるで関心なし。一通 りまわりをチョロチョロしたあと、男のもとに戻り、何匹かはすでにくつろいでいる様子だ。
ツアーの参加者の一人が、「あれは羊飼いなのよ」と教えてくれた。
「この時代に羊飼か!」
昔の童話を読めば、必ず出てきた羊飼い。ヨーロッパの真ん中の山岳地方には、そんな童話のシーンが、まだそこここに転がっている。
しかし都会住まいの我々が、これにロマンを感じ、すっかりはしゃいだ気持ちになるのは、無責任というものだ。話を聞けば、羊飼いの生活はけっこうタフなの である。夏、山に羊を放牧している間中、彼らは下界におりず、ずっと羊についていなければならないそうだ。それも一人で。
山の住まいはイグルーに似た石でできた小屋。オッリィという。そこにはテレビもなければ、ましてやインターネットもない。たまに友人が本をごっそり袋に入れて、差し入れにやってきてくれるそうだ。ただし、一ヶ月に一回だけ、山を降りて休暇をもらうそうだ。
羊飼いに連れられた大勢の犬たちは、すなわち牧羊犬ということになる。彼らは羊を集める仕事をする。
「このほかにももう2頭山にいるんだよ。彼らは羊の群れについている犬なんだ」
と羊飼い氏が話してくれた。それがどうやら、グレートピレニーズのようなのだ。羊の番をするのが専門で、最近特に大事な役割になっている。ピレネーには野 犬がいるし、徐々にこの地方に入ってきているクマも保護されている。これらの動物たちと、放牧活動はなんとかおりあっていかなければならない。
「グレートピレニーズを駐屯させるためにも、羊飼いの仕事は非常に大事なんだよ。犬を世話する人が常に山にいなければならないからね」
ただ、この仕事をやりたいと言う人は最近なかなかいないようだ。
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