[Photo from fotdmike]
ベッドフォード市のドッグワーデンの巡回車。ドッグワーデンは捨て犬や迷い犬の保護だけでなく、飼い主への指導、糞を放置する飼い主への処罰なども行う。
何度もルーニーに会いに行ったが、一向に決断できずにいたので、イギリス人の親友タニヤを連れて行き意見を求めた。彼女は幼い頃から様々な動物に囲まれ、多くの動物を引き取っていたので、きっと最適な助言が得られると思った。
私は全く気がつかなかったのだが、ルーニーの犬舎に、「犬がもう1匹いる」とタニヤが言った。bossy なルーニーはソファを陣取っていて、それに遠慮するかのように、犬舎の隅っこのコンクリートの上で、鹿のような雌犬がへたり込んでいたのだ。
犬舎のドアには、ルーニーのネームプレート以外、誰の名前も書いていなかった。ちょうど通りかかったスタッフに尋ねると、この犬は検疫犬舎から移って来た新しいウィペット犬で、たった今、避妊手術が終わったところだ、と言った。
オックスフォード郊外の森をうろついているところを Cherwell のドッグワーデン(ドッグワーデンは全国各地にいる迷子犬・捨て犬保護監視官)に保護され、誰も飼い主が現れないのを確認した上で、DOGS TRUST に送られ、レディと名付けられた。避妊の他に、マイクロチップの挿入、フロントラインとお腹の駆虫、ワクチン接種、事前の健康診断と性格診断が済んでいた。
レディは、避妊手術が終わったばかりの麻酔の抜けかけの足をブルブル震わせながら立ち上がり、私の顔を上目遣いでシットリと見つめた。
帰り道、タニヤが私には絶対にこの犬があっていると強く主張した。タニヤの見立てに間違いはないと思ったが、正直、みすぼらしい犬だとも思っていた。外見に惑わされる情けない私だった。
私はその後、最終的に、この犬を迎えることになった。ルーニーに後ろ髪を引かれながらも、何度か DOGS TRUST に出向くうちに、多分、自分にはこの犬がいいのだろうと思うようになった。絶対にこの犬が欲しい!とは思わなかった。むしろ、本当はもう少し大きな犬が欲しかったし、嬉しそうにする時、口をモゴモゴさせる変な犬だと思った。
面会に行き散歩に連れ出すと、レディはいつも喜んで私についてきた。当然のことながら、犬にももちろん表情があって、顔はニコニコしていた。これからずっとこの人間と生きていくんだ、と決心しているかのようだった。その頃のレディは人間に前脚をかける癖があったのだが、家に来てからは一度もやらなかったことを考えると、レディなりの寂しい気持ちのアピールだったのだろう。
「この犬を連れて帰ります」
既に何年も連れ添ったように、私を一心に見つめ、私に取り入ろうとする犬を傍に、私はそう言わずにはいられなかった。普通は、人間が犬を選び、犬が主人を選ぶ権利はないが、私はレディに選ばれたのだと思うのだが、どうだろうか。
そしてレディは「既に引き取り先が決まった犬用の犬舎」に移動し、更なる健康診断、検疫期間を経た後、晴れて我が家へ来る日を迎えた。
その日まで、とても長かったように思えた。
引き取りの当日、レディは綺麗にシャンプーをされていた。新しい首輪やリード、ネームタグ、ドッグフードも貰った。6週間分のペット保険も無料でついてくる(その後の契約の継続は自由)。

「もう二度と迷子にはなって欲しくない」、そんな意味が込められ、貰った革のグレイハウンドカラー(幅広首輪)には、ラッキードッグクラブのネームタグと番号、マイクロチップが入っていることを示す頑丈なタグがつけられた。RESCUE DOGS LOVE YOU MORE(レスキュー犬はもっとあなたを愛してくれる)は全くもってその通り。このタグは私の誇りである。貰ったナイロンリードも軽くて丈夫で重宝した。
私は最後の書類にサインをし、引き取り金60ポンド(当時の1万2千円くらい)を支払い、引き取り手続きは完了した。引き取り金は事実、マイクロチップと避妊手術の実費である。
書類の数々。全ての書類にはマイクロチップの番号シールが貼られた。名前、年齢、性別、種類、どんなフードをどのくらい食べていたか、次のワクチンや駆虫の時期はいつか、どの場所で誰が犬を見つけたのか、トレーニングの仕方など、事細かに書かれている。左下はワクチンカード。イギリスではこのカードの携帯は必須。右下はマイクロチップの証明書。ケンネルクラブのペットログに登録されている。
温かいスタッフに見送られ、車に乗せると、レディはもう二度と人と離れ離れになりたくない思ったのか、荷室を乗り越えて、運転する私にピッタリと寄り付き、私は何度も車を停めなければならなかった。
レディは DOGS TRUST 滞在期間1ヶ月という最短スピードで、我が家という新しい住処を手に入れた。
私は犬を引き取りたいという構想から何年目かの長期計画で、ついに犬を迎えた。コッツウォルズには緑豊かな初夏が訪れていた。
【関連記事】






なんだかじぃ~んとしました。
レディ、、mieさんに会えて「よし!!このねえさんについていくわっ!」って
感じだったんでしょうね。
何はともあれ、、良かったね
投稿: MOMO | 2009/01/10 16:25
毎回興味深く拝見させていただいております。
スペンサーとのお別れの記事を読んだときには胸が詰まってしまいましたが、レディとの出会いに我が事のように嬉しくなってしまいました。私もイエローラブ(6歳)と暮らしておりますが、犬と歩む人生はなんと豊かなことかと日々感じております。今後も配信を心待ちにしております。
本年もすてきな一年となりますようお祈りいたします。
投稿: とろる | 2009/01/10 16:59
MOMOさん
コメントありがとうございます!
毎回、会いに行くと、面白いくらい喜んだので、なんだかきもちわるいと思ったくらいです(笑)。私を選んだことが、幸せなのかそうでないのか、誰にも計れないと思いますが、少なくとも私はこの犬を選べたことが幸せです。
とろるさん
とても丁寧なコメント、ありがとうございます!嬉しいです。
そしていつも記事を読んでくださって、ありがとうございます。
スペンサーが生きていたことを、日本の皆さんに知ってもらえてよかったなあと思っています。
本当に、犬と暮らすことは大変なこともとても多いですが、生活や気持ちはとても豊かになりますよね。彼らのストレートな感情や愛情は、見習うことがたくさんありますよね。
とろるさんも、素敵な1年となりますよう!!!
投稿: Mie Shinki | 2009/01/11 15:49
薬殺処分された子の話を、涙を流しながら読みました。
私が結婚したとき、子どもが生まれたとき、嬉しいとき悲しいとき、いつも側にいたシェパードのカール。
彼が年老いて、立てなくなり、身体に沢山の床ずれができ、食事も食べなくなってしまい、やせ衰えて。
そんな彼を見て妻が泣きながら「獣医さんの勧める薬殺を受け入れて」と言ったときの泣き顔
僕の腕の中で旅立った、カールの温もりを、いま思い出しています
どんなに可愛がっても、沢山の思い出だけを残して先立ってしまうワンちゃん
でも、また側にいて欲しいと願う
息子が嫁をもらう歳になり、今、我が家には五代目の愛犬サクラ ビーグル♀がいます。
私に出切る事は多くはありませんが、旅立っていった愛犬たちのことを、思い出の引き出しの中に、大切に仕舞っていたいと思っています。
どうぞレディと沢山の思い出を育んでいって下さい
乱文深謝
投稿: taka | 2009/01/14 13:33
takaさん
コメントありがとうございました。実体験に基づく、非常に考えさせられるコメントですね。
奥様の決断は、勇気ある決断だったと思います。辛かったでしょうが、カールにとってはみんなの見ているところで楽になれて、幸せな犬生だったのではないかなと思います。
日本では安楽死といえばネガティブなイメージがありがちですね。それでも、スペンサーのような状態では、正しい薬品によって、本当に安らかに眠りにつけたことは、痛みを長引かせるより良かったと私は思っています。なので、スペンサーは薬殺による殺処分という言葉ではなく、安楽に亡くなった、という言葉がやはり正しいでしょう。
安楽死が軽々しく行われることはあってはならないですが、動物本位に立てば、自然死と安楽死の選択は柔軟にかんがえて、飼い主は判断しなければならないことだと思います。
犬が死んだら、時間と共に思い出もどんどん薄れそうで、考えるだけで悲しいですが、みんな大事にしていきたいですね。
ペットロスの対処も、新しい犬を飼うことが一番だと言われていますよね。
本当に、犬と一緒に生活できることは、なんて幸せなこと、豊かなことだですよね。takaさんもまたサクラちゃんとたくさんの思い出を作れますように。
投稿: Mie Shinki | 2009/01/15 22:55
今回も大変興味深く拝読させていただきました。
イギリスのようなドッグレスキューのシステム、
日本には反映させられないものなのでしょうか。
残念ながら我が国は今のところ
アニマルライツにおいて相当な後進国のようですね。
イギリスのペット産業についてもっと知りたくなりました。
投稿: nona | 2009/02/09 14:12
nonaさん
日本はこれからです。希望を持ちましょう!
しかしながら、絶対同じにはなりにくいよなあ、と思うことも多々ありですね。
英国のチャリティ精神などは特に昔から貴族が嫌でもやらないと面子が保てない、みたいな雰囲気がありますからね・・・。まあそれが、結果的に一般にも受け入れられたりして浸透しているからいいのですが、なかなか日本の高所得者が、他人のために名誉のためにお金を使うってことはなかなかないですもんね。
ただ企業とかは、ユニセフとかに定期的に募金としてますから、認知度が上がればそういうのもありなんですけどねえ。
日本はそういう世界の飢饉とか、野生動物の絶滅とか、わりとそういうのはよくメディアに流れるんですけど、どうも身近なペットはあまり興味の対象になり難いようですね。
今の日本の獣医学生も、かなり多くの学生が、将来、野生動物の保護に関わりたいと思っている人が多いのです。ある意味、流行ですよね。エコの発想と同じで。
誰でも少なからず、色んな情報や、色んな人に影響を受けていたり、また影響を及ぼしていたり、私はそれがmeaning of lifeだと思っていますが、コントロールされると厄介で、特に日本人は優しい気質が災いしてか、自分の信念的なものが元々弱く、流されやすいですからね。いい方向に流されればいいですけど、そうじゃない人もいる。最も良い悪いって誰が決めるのっていわれればそれまでですが。
イギリスは古い時代から、いろんな国を征服して、残虐なことも繰り返したし、動物もこき使われた時代がありましたから、国や人って、そういうところから成長するのではないでしょうかね。
アニマルライツの話は、マークベコフの「動物の命は人間より軽いのか」がおすすめです。この本のあとがきに、訳者の国立科学博物館の方が、なぜ日本がこのように、あまり動物の命を命と思わなくなったのか、ということが、わかりやすく解説していて、わりと納得できます。
デカルトの思想(動物は感情を持たない機械である)までさかのぼって、考えてみるとわりと面白いことが発見できますよ。
投稿: 新木美絵 | 2009/02/09 22:36
残念ながら、日本人が発起した動物保護センターではありませんが、英国人のE.オリバー女史が設立した”アニマルレフュージ関西”が関西にあります。阪神大震災時、世界のネットワークを駆使した何百頭もの被災ペットの救助活動や、日本では里親が見つからないだろう高齢犬11頭を英国に送り、地元のバタシー・ドッグズ&キャッツ・ホーム(Battersea Dogs & Cats Home)の協力を得、全頭に家族を見つけたセンターです。サイトで会える、動物たちの写真を見れば、大事に大事にされている環境が容易に想像できるかと思います。一時帰国の大きな楽しみはお手伝いに行って、彼らに会うことです。現在の目標は里子に出られない動物たちのサンクチュアリ建設があります。オリバー女史の疲れを知らない、弛まない活動には頭が下がるとともに、彼女からたくさん学ぶことを、しっかり受け継いで日本の動物福祉に反映させ、日本の家無き動物たちに希望を繋げなければと思っています。
投稿: chatokibi | 2009/02/10 20:32
chatokibiさん
そうですか!一時帰国の際にARKにボランティアに行っているのですね!
実は私は前に、ARKで働いてみたいな、と思ったことが何度かあったのです。しかし私の意志が弱かったので、どうしても収入の面で心配があり、踏み出せませんでした。スタッフの方々にはご迷惑をおかけしたと思います。
友達がARKの犬のスポンサーをしていて、その縁で私も今年はARKのカレンダーを使ってます(笑)
サンクチュアリの建築のことがそれにちょっと書かれていて、とても素敵な施設になりそうですね!
何十年も、地道な努力はとても大変で、言葉には表せないことでしょうが、もっともっと日本各地にも広がっていくと良いですね。
投稿: 新木美絵 | 2009/02/11 17:16